「ちいろば先生物語」三浦綾子

ちいろば先生物語 上 (集英社文庫)ちいろば先生物語 下 (集英社文庫)
 榎本保郎という牧師の伝記。三浦綾子の印象では,氏と最初あわないように感じたということ。これは,似たキャラクターだからかも。その時々の行動には間違いや暴走はあったとしても,なんとも人柄が良いというか,人好きがするのだ。人が集まってしまう人格なのだと思う。子供のようなあどけなさを感じるのだ。
 その一方で,氏が中国で体験した戦後のすさんだ生活。目をそらしたい。心が痛む。もし戦争がなければあの兵士も,自分もあんなことはしないで済んでいたのかもしれない。悪いことなんかしないと思っていた自分が,確かに行なってしまった行為。自分が行なった悪いことを愛する人に告白しなければならないという気持ち。
 しかしだからこそ,身を全て捧げ尽くすような行動が取れたのかもしれない。そしてそれは周囲にも及んで,周囲の人がちょっとかわいそうだなぁと思ってしまうのだが,私心がないから巻き込まれてもうれしいのかもしれないなぁ。また,そのときに周りの人たちがどういう風に思って納得したのかというのを読むと,周りの人もやはり立派だと思う。
 三浦綾子は生き生きと人々を描くことと,人を感動を持って見つめる力に優れていると思う。人をこのように感動を持って眺めることが出来なければ,どんな素晴らしい人でも魅力的に描くことは出来ない。また,目立たない人の素晴らしさをきちんと感じ,言葉に出来る人はそれだけ魅力的に描ける世界を広く持っている。
 ちなみに,京都の教会が何度も水害にあい,汚物が建物に流れ込んできたが,そのときに近所の人が「水が引き始めたら水道の水をじゃーっとかけて汚れを洗い落とすのがその後の処理を楽にするコツ」みたいなことを教えていて,なるほどなぁと思った。