ハウルの動く城

おばあさん萌えの私としては,宮崎作品が「少女を描くふりをしつつ実はおばあさんを描いている」ということはちゃんとお見通しなのであって,「ハウルの動く城」でついに自分の欲望をあからさまにおばあさんを出しても収益なんかの問題もなくなったんだな,良かったねという思いでいっぱいです。ちなみに,過去の作品では…

  • 風の谷のナウシカ:オババ様。さりげなく最初から最後まで出ずっぱりだったような。
  • 天空の城ラピュタ:ドーラは真のヒロインだ!分厚い肉を食いちぎりムスカを追いかけまわし息子を叱り飛ばす大活躍。
  • となりのトトロ:おばあちゃん。北林谷栄さんを使ってくるあたりもうたまりません!
  • 魔女の宅急便:老婦人と老いた女中さん。老婦人の上品さに惚れ,孫娘のバカタレっぷりに怒りを覚えた方も多いはず。ほうきにまたがってみる女中さんも素敵でした。
  • 千と千尋の神隠し:少女を描くといっておきながら実際にはユバーバとゼニーバのツートップ。エネルギッシュなユバーバだけでなく手まめなゼニーバも素敵。

…それはそれとして本編。すごい広い世界の一部を見た感じ。自分には楽しめたがまだまだ語りつくせていないのが感じられて「これでいいのかな」とちょっと思う。
鉄道や戦車のテクノロジーと魔法が共存する世界らしい。そして戦争で熱狂した空気の中,そこらじゅうに座り込む人々がいて国がかなり疲弊しているらしいことを感じさせる。
動く城のトリ足。そういう家に住んでるのってババ・ヤーガだっけ?ああいう風に移動してくれれば日照権の問題も解決ね,とか思う。しかも動くだけじゃなくて複数に存在できるとは。
魔法の描き方にリアルな重みがあっていい。魔法というものは便利なアウトプットじゃなくて,それが成り立つための手順こそが大事。物理の代わりに魔術を規則とした動きをちゃんと見せてくれるとうれしい。
ソフィは自分の周囲の環境を受け入れる子なんだな。だから平時には目立たない子だけれど,非常時には強さを発揮するんだな。
そのようにして「荒地の魔女」の呪いを受け入れるソフィ。身に受けたいわれなき呪いを引き受けるのは「もののけ姫」のアシタカもそうだった。受け入れて,自分で運命に立ち向かう。美しい姿だ。
にしても90歳の体って?!あーもう,親切だけじゃなくてもう少し助けさせてくれーと思い,うまい具合に現れたかかしに感情移入する私。あぁ,ああいう風に人間以外にも話しかけるおばあさん描写いいねぇ。
マルクルカルシファーと仲良くなり生き生きと働き始めるソフィ。分厚いベーコンがうまそう。「諸君」なんて優雅なハウルだが,髪の色が変ってしまってからはどろーりと溶けてみたり情けなさも見える。うむ,こりゃアリなんだろうな,と。色男は女の子の夢を演じるものだ。加えて,情けないのはアリだが,せこくなるとダメなんだよな,とか。だからソフィに代わりに行って,というけど,ちゃんと彼も来るわけだ。
そして相対するのは加藤治子様演じるサリマン。加藤治子様といえば「魔女宅」の老婦人であるところの!!そして今回はすさまじい魔術をあやつるおばあさま!!素敵すぎ!「魔女宅」の小生意気な孫娘なんぞは蛙にしてやっちゃってください!と,キムタクの声に萌えていたファンの皆さんに負けないくらいテンションが上がってしまいましたよ。
ちなみにキムタクの声云々が事前に賑やかでしたが気にならなかった。あまり見たことないけどドラマよりよっぽど好印象だった。ジブリの声優ノウハウみたいのがあるのかなぁ。
サリマンとハウルの魔術対決がなんだかFFのメテオみたいだったけど,あれは隕石じゃなくて精霊だったんですね。
すっかり高齢化してしまった「荒地の魔女」。老老介護にっ!と思ったけれどもこの時点でもうかなりソフィは若返っていて,生活苦で老けてしまったおばさん程度になっていたなぁ。老いてすっかり毒が抜けたようだけど,タバコを吸うと復活気味の荒地の魔女。でも,彼女が諸悪の根源だったわけじゃないんだ。サリマンも王家は守るが国全体を守るわけではなく,戦争自体は普通の人間たちが起こしている。「戦争をやめなさいって言うわ」というソフィの素朴な主張は失ってはいかんよなと思う。力を国のためではなく個人のためにしか使わないことを責められるハウルだが,国のためがそんなに偉いんだろうか。もちろん,より多くの人のために力を使うのはいいが,なぜ国になる?そしてそのためにそれ以外の国の人々を何故苦しめなくてはならない?
そんなハウルもソフィの故郷が攻撃されることでついに戦う。そして悪魔に身を落とす危険からハウルを救い出そうとするソフィの行動が逆向きになりそうなんだけど一番はじめのカルシファーハウルの謎ときになっていく。もう一つの伏線も解決してそして戦争は他所で解決に向かっていく。あの王子もなかなかたいした人物っぽかったなぁ。魔法使えたりしたのかしらん。
最初,腰がこりっとか嫌な音を立てていたのがハウルの城で暮らし始めるとどんどん治っていく。寝ているときには若い娘で,愛することが魔法を解く秘密だったとすれば,義務として生きるのではなく,愛すること,自発的に生活し,喜ぶことが彼女の体を治していったのだろう。サリマンがなんか手伝ったというのはあったのかなぁ。
働き者で怖いもの知らず,まわりの人たちを全て受け入れていくソフィは結局ナウシカだったんかい。もっとおばあさん描写が多くても良かったのにさ。