誰か 宮部みゆき

誰か ----Somebody
冒頭の詩から,暗い話を思い浮かべた。西条八十ってインパクトのある詩を書くなぁ。
しかしぞっとする暗さをメインにすえたのではないようだ。主人公が語り手というだけではない肉付けを持っていて,今夜は眠れない (角川文庫)のように連作にしていく作品なのかなと思った。
では,暗さはないのか?といえば,ある。火車の彼女のように,暗さをひきうける人々を宮部みゆきは深い共感を持って描いていると思う。そして,ひきうけない人たちには手厳しい。それが心地よい。
主人公は世間的に言えば逆玉で,彼女の父の会社で仕事らしい仕事もせず給料をもらう「うまくやった」人間だ。しかし主人公には主人公の愛情や事情があって,彼の人格と世間での見方は必ずしもイコールではない。この話で主人公と関わる人たちは彼への見方でかえって自分自身をさらけだすこととなってしまう。彼に諭されても主人公の境遇を攻撃することで自分を正当化する登場人物は非常に痛い。
主人公の周囲のキャラクターはなんだか宮部みゆき村上春樹キャラを見ているような感じがした。繊細な家族が,しっかりと身を寄せ合い,善意を失わないように生きている姿。
核となる現代の話はR.P.G. (集英社文庫)とかなり同じものを描いているような気がした。それとは別の中学生への想いは,私にはとてもうれしい。そう,多くは苦しむものなんだよ。そして未来のためにはそれを踏み越えてしまった方がいいんだ。