「パイド・パイパー」山岸凉子

パイド・パイパー (MF文庫)
短編集。怖かったり重かったりいろいろありますが,表題作が抜きん出ていると思う。
夫の転勤で2人の子供と共にM市に越してきた道子。M市は道子が子供のころに,妹の藤子を幼女連続誘拐事件で喪った場所だった。犯人とされた男はすでに死んでいたが,夫の不倫もあり,家の前のアパートに住む挙動不審のバイク男にも彼女は不安をつのらせていく…。
山岸凉子は不安を描くのがどうにもうますぎて,感動する作品である「白眼子 (希望コミックス (343))」でも初回は読んでて不安で不安で……。


………………この後からより内容にふれます………………

ついに不安が現実となり,娘の千歳を誘拐されてしまう道子。実は誘拐はここ1年で連続して行なわれており,過去に犯人とされた男は自殺で,完全にクロだったわけではなかった。パニックになるが,彼女は娘のために必死に思考をめぐらす。彼女は妹が誘拐されたときに,犯人の声だけは聞いていたのだ。

だってあの声は今考えてみても妙な響きのある優しい声だった
フーちゃんも千歳もすごく人見知りをする子なのに
それなのについて行ってしまうような声……
そんな男とは……?
普通 大人の男性は子供が苦手だわ
我が子ですら夫のように普段から慣れ親しんでいなければ
扱いに戸惑うというのに
そう…普通はそうだわ
ましてや我が子でもない子供だもの
「どうしたの お姉ちゃんいないの?」
ああいった声で語りかける男というのは一体何だろう?
どんな子供も警戒心を解いて思わずその後について行ってしまうような男……

だから,強面な大人がいかにも犯人であるように思う男は犯人ではないと考える道子。彼女は同じ過ちを繰り返さないために行動を起こす。

子供を易々と連れ去る男というのは
常人には無い何か特殊な才能があるのよ!

彼女は最後にその声の答えを見つけ出す。そして,過去に向き合って得た答えは,彼女を未来へ歩き出させるきっかけともなるのであった。重いけど読後感は明るいです。おすすめ。